岡山県の自粛緩和を巡る、津村啓介さんの問題提起への感想
政府の緊急事態宣言が31日まで延長されました。重点的な対策が引き続き必要な13の「特定警戒都道府県」が指定された一方、それ以外の34県では社会経済活動を部分的に緩めることを容認しています。これを受け、岡山県の伊原木知事が4日に会見し、今後の県の対応について見通しを述べています。(以下、青字のところはクリックすると、リンク先に飛びます)
これに岡山県選出の津村啓介衆議院議員が反応し、自身のフェイスブックページで以下のようにコメントしています。(以下、津村啓介フェイスブックページより)
>伊原木知事、勇み足ではありませんか?!
>これは批判ではなく、提言です🙂
>知事、「5日の県対策本部会議」でどんなエビデンスを示すのでしょうか?
>この政治決断には科学的根拠が必要です。敵はウイルス。人間社会の大人の事情は通じません。
>岡山は、全国トップで自粛緩和できるほど、コロナについて安全、安心な状態なのでしょうか?
>残念ですが、私はそう思いません。
>絶対に第2波を招かない態勢をまずはしっかり整えて、自粛緩和を成功させましょう!
>全力で応援します!
伊原木知事も、津村代議士も、どちらもコロナ対策では何度もコミュニケーションをとっているので、少し、私見を述べたいと思います。
まず、申し上げたいのは、この記事は、ややミスリードだということ。4日の会見で、知事は、「大型連休後、あまり大きく変えると誤ったメッセージを与えるが、暗い夜から少しずつ明るくなっていくような形で、県民とコミュニケーションをとることができれば」とも仰っています。これは、誤ったメッセージを与えないよう、連休後に行動を大きく変えることはしない。変えるとしても徐々にやっていくと読み取るべきでしょう。
https://www.sankei.com/west/news/200504/wst2005040012-n1.html
翌日、5日の記者会見でも、知事は、「全て(の対策)が緩和されるわけではない。少しずつ活動を再開する必要がある。しばらくは慎重な行動をお願いしたい」と、慎重な姿勢を崩していません。
https://www.sanyonews.jp/article/1009833?rct=haien_okayama
実際、5日には、7日以降の県の対応を示す「岡山県緊急事態措置」が発表されましたが、その中の「外出に際しての協力要請」には、
・ 県民に対し、不要不急の帰省や旅行など、県境を越えた移動は、仕事であっても極力控えることを要請する。
・ 密閉・密集・密接のいずれかに該当する場を避けるとともに、「3つの密」が重なる場所には、絶対に行かないことを要請する。
・ 特に、他県でクラスターが発生しているような施設への出入りは、行わないことを要請する。
・ 国の専門家会議で示された新しい生活様式(生活スタイル)等の実践を要請する。
と書かれており、積極的に外出自粛要請を解除する表記はなく、むしろ、かなり抑制的なトーンです。
この件で、私も何度か知事と話をしましたが、知事は、「夜が明ける時は、1分単位で明るくなっていることに気付きにくいが、15分単位では明るさが増していると感じられる。社会経済活動の再開は、そういう感じで対応していく」と仰っていました(わかりやすいかどうかは別にして、こういう比喩が多い人です)。ただ、冒頭に紹介した記事では、緩和に前向きな感じが前面に出ていて、そのニュアンスが伝わってきません。ミスリードだと申し上げたのは、そういう意味です。
また、岡山県だけが突出して先行、という事実もありません。政府の基本方針は、13の「特定警戒都道府県」では、これまで通り人と人の接触8割減を求め、それ以外の34県では、外出自粛や施設使用制限の一部緩和を容認しています。当然、34県では、それぞれの県の実情に応じて、行動制限を徐々に緩和する方向で検討が進んでいます。他県の議員さんからも情報収集をしていますが、岡山県が突出した対応をとっているとは思えません。
34県で対応が進むとはいえ、行動制限をどの程度緩めるのか、どういうペースで緩めるのか、という「程度の問題」は県によって異なります。岡山県の対応の詳細は、上記「緊急事態措置」の通りですし、今後、他県の状況もわかってくるので、県別の取り組みを比較して論じるのであれば、各県の感染状況とその対応を分析したうえで、進められるべきだと思います。「程度の問題」を抽象論で話しても、生産的ではありません。
さらに考慮すべきは、緊急事態宣言は、引き続き全都道府県に発令され続けているということです。政府の専門家会議が、「新しい生活様式」を提言していますが、これは、34県の行動制限緩和の動きに関わらず、日常生活を送るにあたり、人々が身に付けるべきこととして推奨されています。これまで、感染拡大を防ぐために言われてきたことをまとめたものという印象ですが、事細かな具体策が盛り込まれています。
現在、日本社会に働いている同調圧力を考慮すると、「新しい生活様式」は、マナーやエチケットの問題というより、事実上の行動制限として機能すると思います。34県で自粛要請の解除などが進むにしても、「新しい生活様式を守ったうえで」という括弧書き付きの対応であり、結局のところ、一定の強度の行動制限は課せられるでしょう。また、「企業活動を再開する場合の対策」については、業種ごとにガイドラインを作成するとしていますが、このガイドライン、私が情報収集したところでは、オペレーション上のかなり細かいところまで書き込まれるようで、各企業がこれに忠実に従えば、34県内といえども、事業活動への制約は、引き続き、強くかかり続けると思われます。
というわけで、津村さんの心配は、杞憂で終わりそうというのが感想です。
ただ、津村さんの仰る通り、行動制限解除などの意思決定は、出来る限り、医学や科学のエビデンスに基づく「基準」に従って行われるべきだと思います。津村さんが主張されている「5要件」が全て適当かどうかは別にして、どういう状態になったら、普通に外出でき、店舗が営業でき、学校が再開できるのか、県や県教委に説明を求めても歯切れが悪く、予見性がとても低いです。大阪府などでは独自の基準づくりが進んでいます。政府も、宣言解除の基準について、①直近、2~3週間の新規感染者数、②感染経路不明の感染者の比率、③PCR検査が適切に行われているかどうかなどを総合的に判断、という考え方を示しました。岡山県にも、県教委にも、「基準」の策定を要望しているところです。
基準づくりの前提となる、エビデンスの信頼性を確保するためにも、PCR検査体制の拡充は不可欠です。また、医療崩壊を防ぐことは、コロナ感染症対策の最も重要な点なので、判断基準を作る際には、地域の医療供給体制を測る指標を組み込むことは必須です。入院前PCR検査や妊婦受け入れ前PCR検査は、その一つの指標になりえますし、患者さんの不安を緩和し、医療従事者への感染を防ぐ意味でも大変重要な視点です。「基準」と直接リンクさせるかどうかは別にして、県に、その実現を要望しているところです。県では、前向きな検討が進んでいると聞いています。
今回の津村さんの投稿は、行動制限を緩和する基準についての指摘ですが、突き詰めると、患者の入院前PCR検査や、妊婦受け入れ前のPCR検査の導入を求めるものです。私が県にアプローチした感覚では、当初、あまり前向きではなかったものが(私の印象です)、津村さんの指摘との因果関係はわかりませんが、対策会議などでも検討項目に挙げられています。問題提起の意味は十分にあったと思います。
いずれにしても、今回の県の対応は、「命派」と「経済派」が対立するような話ではありません(コメント欄のやり取りでは、そういう議論も見受けられます)。命も経済も、どちらも大切で、バランス感覚をもった政策判断が求められており、正しい情報に基づく冷静な議論が必要です。
知事の言ってる事もわかりますが、多くのパチンコ店、夜のナイトクラブ、バー、スナック、特に外国人クラブは、知事のTV報道により5/7より営業開催と宣伝をしています。
知事の言ってる事を一つも守る上の店は、無いです。
その事を調査など、しましたか?!
そういった事もしないで、無責任過ぎます。
せめて、5/21 二週間後に、決定すれば良かったんじゃぁないですか!
検討をお願いします。経済よりも人命が、一番では、ないでしょうか?!
コメント、ありがとうございます。
現在(5月6日まで)、県内で休業要請が出ている(特措法にも基づかない、知事の「お願い」ベースでの要請)事業者は、パチンコ店と県外からの観光客を受け入れるホテルなどです。自分なりに調べたところ、パチンコ店は全て営業を止め、ホテルも9割方営業していません(細かく見ると、期限のある仕事でどうしても岡山に泊まらなければならない客への対応をしているところ、飲食部門のみの部分営業、などいろいろあります)。(あくまで、私の私的な調査なので、不正確かも知しれません)・・・ケース1
夜のナイトクラブ、バー、スナックなどは、県の営業自粛要請の対象ではありませんが、県民に向けて、具体的な営業形態を名指ししたうえで、「3密になるような場所には、絶対に近づかないで」と訴えており、消費者の行動を制限することで開店休業状態を作り出しています。結果として、私の目視ベースでは、実際に8割くらいの店舗が営業を取りやめています(実際に岡山市中心部の繁華街を巡回しました。看板の灯を消して営業しているところはわかりません。また、金土だけとか、あらかじめ予約が入っているお客様だけ受け入れるとか、部分営業もあるようです)。・・・ケース2
7日以降の県の緊急事態措置の「適切な感染防止策の協力要請(法第24条第9項)」には、以下のような記載があります。
●事業を継続している施設及び再開する施設に対し、適切な感染防止策の協力を要請する。
●他県でクラスターの発生報告があり、重症化リスクの高い高齢者が利 用する福祉施設に対し、適切な感染防止策の徹底を要請する。
●屋内運動施設、遊興施設及び遊技場については、適切な感染防止策が 講じられない場合には、法に基づかない営業自粛の要請とする。
ケース1では、法に基づかないお願いベースだったとはいえ、自粛要請が解除されます。「(できれば)営業を自粛してください」から、「営業するなら、上記を守ってください」になるわけですが、問題視されているパチンコ店については、「適切な感染防止策が講じられない場合には、法に基づかない営業自粛の要請とする」と、わざわざ書かれています。業界団体が作るガイドラインも、かなり細かい感染防止策が盛り込まれるので、それも含め、対応できない場合は、再度「営業自粛」を要請されるということです。加えて、県外居住者の入場制限なども要請しています。
また、表に出ている緊急事態措置とは別に、知事周辺からは、業界団体や大手の事業主等に対し、民間事業者の営業行動を妨げないよう慎重に配慮しつつも、様々なメッセージが届けられていると聞いています。少なくとも、県内のホテル等は7日から一斉開業ということはありませんし(いくつかのホテルに電話などで確認しました。ホームページでも調べられます)、パチンコ店には伝手がないので、私の推測ですが、7日に一斉開業とはならないと思います。
ケース2では、少なくとも事業者への対応は、6日以前と7日以降で変わりはありません。県民に対しても、緊急事態措置で、
●密閉・密集・密接のいずれかに該当する場を避けるとともに、「3つの密」が重なる場所には、絶対に行かないことを要請する。
●特に、他県でクラスターが発生しているような施設への出入りは、行わないことを要請する。
と書かれており、引き続き、そういう場所への出入りは避けるよう訴えています。要するに、6日までの状況が続くと思われます。
仰る通り、7日以降フェイズが変わることは事実なので、ケース1であれ、2であれ、これを機に営業再開を考える事業者が出てくるかもしれません。実際には、お客さんの状況をみながら、徐々に進むと思われます。これは、年単位で営業を止めるわけにはいかない以上、どこかでそういうタイミングが必ず来ます。5月7日は早すぎるのでは、というご指摘だと思いますが、県は、国の方針に基づき、34県で行動制限の一部解除が進む7日を一つのタイミングと捉え、慎重さを保ちつつ対応していくということです。早い遅いについては、主観に基づく水掛け論になりがちなので、津村さんも私も、しっかりとした判断基準が必要だと言っています。
自粛要請を聞き入れない事業者があるのは問題だという点については、ケース1について仰っているのであれば、「聞き入れてほしいなぁ」という感情論としては、私も理解できます。ただ、法律論で考えると、特措法では強制的に事業を止めることは出来ず、あくまで「自粛要請」なので、自粛に応じない事業者が一定程度出てくることは避けられないと思います。それは、6日以前も7日以降も同じですし、岡山県に限らず、日本全体で起こっている問題です。自治体としては、感染状況や、営業時の感染症対策などから判断して、「感染症対策を徹底したうえで営業」→「法に基づかない自粛要請」→「法に基づく自粛要請」(この辺りでケースに応じて事業者名の公表)→「法に基づく自粛措置」という段階を追った対応をするしかありません。
ナイトクラブなどが集まる繁華街等では、自治体職員や県警等による巡回が続いています。外出自粛を呼びかけたり、お客さんが入っている店舗の前でパトカーを止め赤色灯を回すなどの行為も報告されています。同調圧力を利用して営業「自粛を強要」(日本語としては変です)したり、法に基づかない営業妨害まがいの手法はやり過ぎだと私は思いますが、良くも悪くも、なりふり構わず感染症対策に取り組んでいる、という本気度は伝わってきます。
私も調査では、市内中心部の商業施設などを含め、7日から一斉に営業が再開される可能性はほとんどないです。知事が言われるように、「夜が明けるように、ゆっくりゆっくり明るさを増していく」感じで、徐々に進むのではないでしょうか。もちろん、その間に人々の行動に明らかな緩みが出たり、クラスターが発生したり、医療体制がひっ迫すれば、躊躇なく、行動制限のレベルを上げるでしょう。そうならないことを祈ります。
なお、命か経済か、という問いの立て方は、少し誤解を生む表現だと思っています。コロナで亡くなる方もいれば、このまま経済を止め続ければ、倒産や失業など経済的な行き詰まりで自殺する人も出るでしょう(歴史的に、失業率と自殺者の数は相関することがわかってます)。命と命の問題だと捉えるべきではないでしょうか。どちらの命も等価であり、どのような理由であっても、亡くなる方を最小化することが政治や行政の責務です。両方大切なのは当然ですが、両者はトレードオフの関係なので、かじ取りは大変難しいと痛感します。バランス感覚が問われていると思っています。